ご紹介するのは,香港の朝ご飯の,意外なレベルの低さ。
大陸中国でも台湾でも,早飯(朝食)の充実度には驚かされてきた。品数は少ないのに構成する品が素晴らしい。豆粥,シエン粥,焼餅,菜包,油条,中華粥。美味い以上に腹持ちと程よいカロリーが,1日の起動食として完成された健全な一食を作ってる。
香港でも,少なし大陸並みの完成度の朝食があるのかなと思ってたが,これが――。
驚くほどヒドい。
考えうる最悪の構成で,ワザとやってるのかと疑うくらい。
最初は,単に店選びを誤っただけかと思ったけど――
香港に着いて記念すべき第一食目を,九龍の楽街の98℃で食った。
早餐E
隻併麺/ザーサイ肉線,腸[イ子]22HK$
おお!何と!
まさか…ただのインスタントラーメン?ザーサイ肉線がかろうじて食えるが,あとは市販っぽいハムが付いて…まさかこれだけ?
ボリュームは確かにまあまあ。ラーメンと汁に肉だから腹は膨れる。けど,インスタントはインスタント。日本のチャンポンメンに近い,もろ化学調味料な味しかしない。
この辺り,こんな店が数軒連なる。おそらく通勤路だからだろけど,まさかどこもこんなもんなの?
日本なら,時間のないキャリアウーマンな今時のお母さんが最短時間で寄り合わせましたって感じの,食の崩壊の典型例に上がりそうな食卓だぞ?
ネーミングのセンスはいいからと入ってみたが。
出だしを挫かれた…次は店を選ぶべし!
香港2日目の朝,98℃の並びの広東焼味餐庁へ行ってみたわけだ。
早餐D 21HK$
沙[父/多]牛肉麺
餐肉炒蛋
牛油方飽
紅茶
お…お前もかあっ!
またインスタントラーメンやんけ!何で香港まで来て,2日連続インスタント食っとんねん!
しかも…フォークで食う?日本人なら(香港人だけど)箸で食え!!(いや,香港人だし?)
個別には,確かに味はいい。
沙[父/多]牛肉が異様に美味い!大陸中国で何度か食った記憶のある,腐ったような臭いをまとわせた干肉的な香りの肉。だけど,改めて食うと滷味の甘辛系みたい。
それとミルクティー。味が濃い!インドのチャイめいた紅茶の香の濃さプラス…コンデンスミルクか?ミルクが妙に舌にまとわりつく甘味。
けどよー!
どーあがいてもインスタントラーメン。構成の貧相さはフォローしようがないぞ!!
他の朝飯店の早餐メニューを覗いても,どーも香港人の朝飯って平均的にこんなもんらしい。日本のモーニングが実は無国籍のパターンなのと同じで,香港モーニングってのもどーも独自発展したガラパゴス状態になってるらしい。
メインは…インスタントラーメンにトースト,スクランブルエッグに焼きスパム?沖縄の「軽食」よりヒドいけど,中華早飯とコンチネンタルの奇妙な合体形って言おうと思えば言えるわけで──これはこれで俄然興味が湧いてきた!
ただ…マカオ以来ほとんど野菜食ってねえなあ…。どーやって食えばええんや?
イタリアん時も直面したけど,当面の課題はこれやね。(イタリアん時はコープで解決したけど)いわゆる広東中華,野菜の白湯煮込み的なもんも多いって聞いたんやけど,こんなんじゃあ…とても現れる気配ないんですけどね…?
「ホンコンウォーカー」に,たまたま香港早飯的な特集記事があった。もちろん中国語表記だけど,理解できた範囲でもなかなか食指が動くとこが多い。
で,まず中還の上環熟食中心ってとこに行ってみましたら――上環市政大[ガンダレ+夏],つまり市役所の中にあるじゃないか?役所の食堂?
と一瞬敬遠気味になったけど,どうも単に市役所と同じビル内ってだけらしい。日本みたいに行政財産の目的外使用はまかりならぬとか民間活用の推進とか,どーでもいー屁理屈ジャングルはないのね。
フードコートに出た。猥雑な雰囲気で照明も暗い。中国市場のオーラが漂う。横の店の仏壇の上で何かガタガタ音がしてると思ったら,暗がりに猫が蠢いてる。そんな空間です。
飲茶的にポットとセイロを前にしてるオヤジもいる。ここなら確かに安く済みそう。
このフードコートの隅っこ,少し探すほどさりげない場所に目指す店はありました。
瑞記珈琲[女乃]茶。これが店名。
常連っぽいオヤジが数人,新聞広げてくつろいでる。関西の昔からの溜まり場喫茶店みたいなマッタリとした空間。
肉蛋飽と[女乃]茶を注文して席につく。
[女乃]茶は普段着の美味さ。
しつこくも苦くもない。普通に飲めて,満足感たっぷりのちょうどよさ。
サンドイッチ。あれ何をどうやってんだろ?
スパムみたいな肉のミンチとジャガイモが入ってるらしいオムレツ状の卵サンド。やや強めの肉汁,芋のホクホク感,そして卵のまろやかな味わいに加えて,パンも普通に絶妙な美味。全体のまとまりが,ケチのつけようのない安定を見せつけてる。
やはり朝食として栄養バランスが優れとりゃせんが,断然美味い!要するに美味けりゃいい!次には腹に溜まりゃいい!香港の早餐ってそーゆー感覚らしい。
店はおじいちゃんが一人で営業してるみたい。商品差出口兼用のキャッシャーで20HK$渡したら「OKOK」みたいな仕草。明らかに足らないと思うが,勘違いなのか?それともそんなに外人が来て嬉しかったのか?
なぜか「龍馬精神」の張り紙。香港でどーゆー精神?坂本じゃあないんだろけど?
ウォーカーにもイチオシだったし,歩き方にも載ってた有名店,勝香園。
午前10時に行ったら,既にほぼ満席状態。大声でよびとめないと,注文取りに来てくんないほど。
日本人を含む外人観光客らしき姿も見えるけど,それ以上に地元香港人の有名店らしい。瑞記とは対照的に,生活者らしき人は見当たらない。
麺B雑菜(大豆芽菜・[火乍]麺根・菜心・青菜)+五香肉丁 22HK$
[女乃]茶(熱) 12HK$
なぜか合計は31HK$だったし,麺は実際には雑菜じゃなくザーサイ肉[糸糸]が来たけど。
麺なんか頼むつもりなかった。つもりはなかったんだが,皆さん赤黒いその麺を食ってない奴いない位だったんで,つい手が出てしまう。
確かに美味い。B級に美味い。昔の台湾牛肉麺の美味さです。細やかさはあんまりない,トマトと漢方スパイスの大柄な味。昔なら一番好きだった分かりやすい味覚。
で。本来ここには[女乃]茶を飲みに来たんだった。
濃い。
紅茶のエスプレッソって感じでガツンと来る香り。他のミルクと一体になった滑らかさってゆうより,やはり大柄な紅茶味だけど…香港早餐的には正統派な味覚なんだろな。
要するに。いわゆる広東料理の細やかさとは一線を画して,香港早餐ってガッツリ食わせる系らしい。
日常食でガッツリ食わせる系な上海以北の中華料理に対する,アッサリと栄養価の高い中華早飯。それとは逆転したバランス感覚で,香港早餐は構成されてるのかもしれん。
これもウォーカーに載ってた店です。最終日の朝に向かった湾仔の華星[ニスイ+水]室。
西冷紅茶 13HK$
炒蛋多士 15HK$
黒松の粉を卵に乗せたのを目当てに来たんだけど,夕方17時から限定らしい。
ただ,やっぱ朝にはてきめんです,香港スタイルのトーストとミルクティー。
炒蛋多士の「炒蛋」はスクランブルエッグ,「多士」はトーストだけど…だからってこの量は何?卵4つ位使ってんちゃう?トーストに卵が載ってるってより,スクランブルエッグの底にトーストも付けてますってバランス。トーストからこぼさずに食うのは無理なほど。ただ,卵はシンプルにいい美味さ。塩胡椒も申し訳程度で,卵味をストレートに食わせる。
これとミルクティーだ。やはりスゴい!濃いんじゃない。雑味がスゴく少なくてストレートだから,紅茶やミルクの本来の味の輪郭がくっきりしてるらしい。
てきめんにガッツリ朝の起動食で,香港早餐ここにあり!って一食でした。
瑞記のフードコートで屋台飲茶してる方々を見て考えたことが,もう一つある。
香港の伝統的朝食。それこそがいわゆる飲茶って形式なんじゃない?
安い飲茶なら,ここで紹介した香港モーニングと大して変わらん値段。だから食の心ある市民は,モーニングセットより安飲茶を選んでるんちゃう?
対して香港モーニングってのは,今まさに展開しようとしてる未完成の新興の形態で。
食卓としては明らかに劣るのに,わしが何ともこの香港早餐に惹かれてたのは――この若さと,危なっかしさゆえのようなんでした。
※後日談:ところが,です!!!香港の進化の速さは常人並みではありません。10年もしないうちに,意外な,かつ香港らしい朝食文化が生まれていました。もう香港の朝は(飲茶以外でも)不味くない!!・・・Range(中環・佐敦・太子).Activate Category:香港九次 Phaze:最終日/第三食:肉と野菜のゴロつきスープ