外伝05O・紹興其之一ヰ 安微浙江遠討編・星期四 ヰ
安微に入りて直球絶味に身悶える

八大料理系統
一 山東料理
  /北京料理
  /宮廷料理
  /東北料理
  /山西料理
  /西北料理
二 四川料理
  /雲南料理
  /貴州料理
三 湖南料理
四 江蘇料理
  /上海料理
  /淮揚料理
五 浙江料理
六 安徽料理
七 福建料理
  /台湾料理
  /海南料理
八 広東料理
  /潮州料理
  /客家料理
  /順徳料理

 あっ!
 お茶飲みコップを忘れとるよお!
 新幹線が広島を離れた瞬間,趣旨的にかなり重要な忘れ物に気が付く中国旅行の始まりでした。
 まあ悔やんでも忘れたものは忘れたわけで向こうで何とかするとして,冒頭に挙げた「菜系」と言われる中国八大料理の話です。
 中華料理というものは存在しない。日本で存在するように見えるのは,そういう名の現代日本食。広東料理と北京料理は,ドイツ料理とイタリア料理並みには違うことは既に実体感済み。
 じゃあ?このWikiで見つけた八大料理をわしは全て知ってるのか?
 山東料理は西安滞在中に食べ続けた味だとしよう。四川は成都で,湖南は長沙で,江蘇は上海・蘇州で一度は食べてぎたとしよう。福建は台湾で,広東は香港・広州・順徳で感動してきたあの味だろう。
 では残る浙江料理と安徽料理は!?
 この全く未経験…てゆーか聞いたことのない料理に初タッチしてみよう,というのが今回の企画であります。
 ちなみにこの両地方はお茶も有名。安微は中国十大名茶中で黄山毛峰,祁門紅茶,六安瓜片の3つを産するほか安微鉄観音の邦。浙江には西湖龍井茶で名を馳せる「中国茶都杭州」がある。
 にも関わらず…お茶カップを忘れて旅立ってるこの状況はこれ如何に?ああっ!既に失敗臭が漂っとるがな!

 時は7月10日。
 そりゃ何の日だ?という疑問を持たれるアナタは,チッチッチ。博多っ子とは言えないぜ(わしもだけど)。
 つまり博多祇園山笠追い山である!!
 …いや,追い山は15日なんだけどね。その一番流れ出走,7月15日5時59分の,もうちょっとで100時間前なんである。
 だからどうした?と思われるかも知れない,というか思うに決まってるけど。だから,これに絶対間に合うように博多に帰って来る日程となっております。
 長々書いたがこれが言いたかっただけである。

 つまりまあ,とても短い味見旅行になる。
 実は,まだ両省のピンイン(中国語の発音)も知らん。だから今調べると…安徽 ( an1 hui1 ),浙江 ( zhe4 jiang1 )(数字はイントネーション)。「アンフィニな嬢ちゃん」と覚えることにしましょう。
 で?
 どの街に行くのか?
 そんな難しいことは着いてみないとわしも知らんがな。でも,漠然と狙ってるのは安微は省都・合肥,浙江は杭州と紹興だな。この3地点に泊をする公算が高いな。
 もっとも…今思い出したけど杭州には一度泊まったことがあるなあ。苦労して記憶を探ると,あれは20年前の就職初年度だったような気が…レンタサイクルして湖岸を走ったような…けども不思議と何かを食って感動した記憶がない。
 という感じで,上海遠郷を巡るのはかなり久しぶりです。そんでもってさらにその上海外延から内陸部は,今後の中国発展を担う地域とされるホットなエリアになろうとしてます。
 翌日の博多から9時50分発。上海着は10時20分,最近の飛行機は凄いもので30分で上海です…じゃなくて時差があるのか?え~と?何時間あるんだっけ?
 基本情報を全く持ってないことに旅行しながら気付く。この辺りも行き当たりばっ旅の醍醐味ですね。

 中国国際航空のJALコードシェア便でした。さすがに機内食のサンドイッチは良質です。
(累計▲706kcal)
※現在久しぶりに1800kcal枠で食記録中
機内食 500kcal
 浦東空港には地下鉄が延びてきてました。2号線らしいから,このまま乗れば南京東路,人民広場に至る。1階の長距離バスターミナルからはおそらく合肥への便もあるだろう。便利なもんだ。
 ただ今日は時間を惜しもう。リニアで龍陽路へ,2号線乗換で人民広場経由,1号で上海火車駅へ揺られます。
 上海は2年振り位か。しかし…こんなにビルだらけだったっけ?農村だったと記憶するリニアの沿線さえ高速道と下町が車窓を埋める。地下鉄車内はもう日本と見分けがつかん。服装もファッションも仕草も,アナウンスも壁掛けテレビも全く違和感を感覚させるものがない。セルフォンや連れ合いと容赦なく話すバカでかい大声以外には。カメラを使う気にもならん。
 この20年に中国が成し遂げたことと日本のしてきたことを比べると,また愕然とさせられます。

G7252次 1531開 上海→合肥
 12時過ぎに駅で買えた直近火車票です。
 205元,2等,しかも久方ぶりの悪夢の無座。合肥着は18時半を過ぎるがまあ仕方ない。
 駅前のバスターミナルに荷物を一時預かりしてもらい,身軽になってから人民広場へ。
 黄河路に着いたのは13時15分。追い山出走まであと88時間。

▲黄河路の定番・小楊生煎

 黄河路ではとりあえず,観光客的に小楊生煎へ行ってみた。6元(4個),400kcal(累計900kcal,以下単位は略)
 以前はあれほど感動した味だったはずだけど…衣の焼きは不均一だし,中はニンニクが強いだけで味わいが単調。2階席は外人だらけだし,ここはもう観光地。味が落ちたのか,こちらの舌が変わったのか…おそらくどちらもだと思うが。
 南京東路に移動する。しかし改めて思うが,すごい人出です。
 記憶以上に面白い店はない。外資ばかりがわんさかしとる。今回のテーマからはちょっと失敗臭いなあ。
 仕方ないから
COSTA COFFEE 双意式[シ衣]縮 20元
 エスプレッソです。「双」の文字が何なのかは分からんけど…まあそこそこ飲めるかな?
 やはり漢人圏でコーヒーは期待しがたいか。

▲南京東路,COSTA COFFEEで双意式[シ衣]縮を一服

 15時10分,追い山出走まで86時間。
 G7252次の検票の列に混じってる。これだけはやはり嫌になる。
 わしの脳は三桁までの数字しか記憶できない仕様なので,四桁の車両番号は迷惑だ。「夏,ごっつう!」と覚えよう。
 動き出した中国新幹線,無座…。つまり通路に3時間半,立ってるしかない。

 18時20分,追い山出走まで83時間を切った。
 30分ほど車窓に見とれてました。
 初め何が美しいのか分からない美しさを魂の深いところだけが捉えてる不思議な感覚がありました。
 微妙な大地のうねり。
 真っ直ぐな道や運河が見あたらなくて風景のパーツが生活圏感覚でまとまってる。
 土地の筆が不規則です。
 何とも…今まで触れた中国の風土のいずれとも違う貌の景色が,窓外を流れていきます。
 なぜかドイツ南部に共通してる気がしてきた。
 夕陽に映えるビルが森の向こうに姿を見せて。
 18時30分,合肥着。追い山出走まで82時間半。

▲合肥駅前,東側歩道橋からの景観
 この駅はまさに懐かしの共産中国的な,ドドーン!党は偉大なるぞ!忠誠を誓ってもらおうかワレえ!!…的な長方形巨大ビルジングです。

 合肥駅前を南西に市街地と結ぶ勝利路。
 …は主要幹線としては考えられんほどの大再開発中。というのは,工事で完全に遮断されてるんである。不規則に空いた通路に車と人が押し寄せて大変なことになってます。
 だもんで,目星をつけてたモーテル168はこの道をまっすぐ15分ほど歩いたとこのはずが,どこをどう進んだらいいのか全く見当がつかない。やっとたどり着いて,幸い部屋は空いてたんだけど,既に19時半を回ってます。
 午後はのんびり合肥見物,という見通しだったが…初日が終わりかけとりまする。舐めるとコワい,恐るべし中国交通事情。こんなんならバスにすりゃ良かったのかな!?
 とにかく,疲れた!3時間立った挙げ句のリュックで1時間歩きはキツかった!体力をキリキリと絞り取られる中国旅行のモードを,身をもって思い出さされました。
 おまけにauケータイ繋がりませ~ん。

 夜7時,追い山出走82時間前。とにかく繁華街の[シ唯一ロ]河路を目指して,駅と反対方向,南を目指してます。
 夜の街はかなり閑散としてる。段々不安になってきてたところで橋に出る。レインボーカラーに電飾されたやたら派手な橋です。
 川を渡ると賑やかな歩行道がようやく見えてきました。
 とりあえず白帝鮮[女乃]屋で一服。台湾系の飲料店っぽいが…。
牛[女乃]三兄弟 10元100(1000)
 台湾で三兄弟って言い方は既に定着しとるのか!?だとすれば…これは日本語からの外来語ということになるのか?

▲[行宗]小楠臭豆腐

[行宗]小楠臭豆腐
天下第一臭
毛主席愛[ロ乞]的臭豆腐首家登陸合肥
歩行街最早宗的臭豆腐創始人
小碗 5元100(1100)
「臭」文字のTシャツ(買いたい!)のオヤジがむっつり黙々と揚げるのを,やはり黙って待つ行列。
 実は,安徽料理,特に微山の特色料理に「毛豆腐」というのがあり,何とか食えないかと情報を探るも断念したとこでした。臭豆腐そのものものも特徴的なんだろか?
 幸い回転は早く,10分ほどで購入成功。皆さんにならって道端で食う。
 かっ!?
 ──考えらんないほど,臭い!!!
 臭いのである。臭いのに?なぜか自分の口がそれを咀嚼してる。そうしてるうちに,臭さが麻辣にピッタリ寄り添っていき,爽やかな香りを残して喉を通っていくんであります。
 このコントロールに,唖然とした。
 何だ,この中華味は!?
 臭さを離れて,味覚の構造そのものを味わい直してみる。これは…ある意味すごくシンプルな味です。広東を始めとする中華一般に共通した,あの二重奏,三重奏がない。ソロの音声がくねりながら続いていくだけ。しかしそれだけで食える。それは和食のストイックさとも違い,ふてぶてしいまでに堂々と,しっかりした味覚の尾を引いてくる。
 食材と調味料が一つの化合物に結合しきってると言うか…その存在感の濃さに圧倒されてました。

▲手工酸[女乃]の草苺酸[女乃] 10元100(1200)

 しっかりした晩ごはんみたいな店がない。いやあるにはあるけど,何か高級っぽいし,それ以上にあんまり土着っぽい色の料理が見当たらない。
 仕方なく,って感じでセレクトしたのが──店名:手工酸[女乃]。
草苺酸[女乃] 10元100(1200)
日計1200
累計▲1306kcal
 美味かった。中国の酸[女乃]は侮れないことが多いのは既に経験済みです。美味いんだけど──
 さっきの臭豆腐と,これまた似た感想になる。
 酸味が直線的なんである。
 導入から後味までが一本の味の糸で貫かれてる。途切れや迷いがなく,すうっと真っ直ぐに,豪快でも激烈でもなく,しかし存在感ある酸っぱさが途切れない。
 確信し始めた。こんな味覚センスを,まだわしは知らないぞ!?

 その夜は,[シ唯一ロ]河路から宿までバイクの後ろにまたがって帰った。タクシーが捕まらんから単車を捕まえたんだけど,気持ち良かった。
 ただ,帰ったらもう宿近辺は闇に包まれてて,もう寝るしかなくなりました。

 7月17日(金),8時。追い山出走まで69時間。
 駅前を探索する。老郷鶏って店名のファーストフード店が地元系みたいだったんで(「安微最大快餐品牌」とのこと),とりあえず,あ~あって感じで入ってみたんだんだけど…。
老郷湯包+豆ジャン 12元300
 名物の肥西老母鶏湯は朝だから食えなかったんだけど,それでも期待以上でした。
 骨太の味というか,肉なら肉,豆なら豆の味わいが最初にグンと来て,後はそのまま尾を引くだけ。北京系の技巧でも広東系の深みでもなくて実直に,潔く,いわば正面から斬り込んで来るような味。
 層がないことで美しく有り得てる味覚と言うか…。ちょっと類推する味がない旨さの種類なんですね。

 緑[杓-木]という店も地元っぽかったので入ってみる。
粥+@12元400(700)
 好きなトレイを指差しておかずを取ってもらうタイプの店。おかずかと思って盛ってもろた焼そば以外は同じ傾向でした。
 最初のパンチで最後まで味覚を引っ張ってくる。やはり単調な味です。単調なんだけどそれが美しいと言うか。
 何か同じことを繰り返し書いてる気がするけど,これ以上は今のわしには深掘りしにくい味です。あまりに他と哲学が違い過ぎて,表現できない。
 この微妙な異質さ。確実に違うのにどうにも掴めない。これは…かなり厄介な食文化です。

 如意按摩45分48元
 途中何度となく足の甲から裏からバンバン叩きまくる変な足裏だった。けど,何か無性によく効きました。
 Lanqi coffee
Espressoo濃縮珈琲 20元
 なかなか飲めるエスプレッソ。機械も本格的だったけど,マイルドに入って爽やかに抜ける。
 ここが全国チェーンだったら違うんだけど,料理の味覚感覚に共通する気もしました。

 便名G7572,温州南行。
 10分前までホームに下ろさない上に,車両の停車位置が表示されてないから皆さん汗だく。車両だけは新幹線ってのが滑稽に思えてくるほどです。
 うーん…消化不良だな。駅前再開発が終わった頃,もう一度訪れないわけには行かない街ができてしまいました。
→2019.05再訪:/※5473’※/Range(合肥).Activate Category:上海謀略編 Phaze:合肥再到