外伝04━〓〓〓文月之講━〓〓〓
北山じん六の蕎麦三昧

Ψ 小暑~大暑
δ ハモきゅう,にしんナス
θ 水羊羹,琥珀羹,錦玉羹

 ハモ美味かったっス~!!
 昔から見慣れた魚ではある。日本人一般がどーか知らんけど,瀬戸内海の海賊の血を引く(と思い込んでる)わし的にはガキの頃から見慣れてる。でも,どーも美味いとは思えまへんでした。
 さて話は錦市場へ。いつ通っても明らかに他とオーラの違う魚屋があります。
「ハイこんな旨いもんないでえ~!!これ買うて帰らなんだらアホやで~!!」
 毎月見ると違う魚なのに,口上は常に同じ。…池政の爺ちゃんもだけど,どーも錦にはこーゆー人種がいる。5年後も,きっと同じ口上を繰り返してるはず…
 魚末ってその魚屋で,まあ一回騙されたつもりで買うたろかい…一回だけよ。って感じで今月が旬のハモの照り焼き買ってもーたのが運の尽き。(いや何も尽きてないけど)さらにこの後書く池政のハモご飯がトドメの一撃。(だから撃たれてもいないって)
 広島帰っても,スーパーでどーしてもハモってしまってワンワンワワンなわしになっちゃっております。
 すっかり魚食いになっちゃったからだろな…あの淡白さと骨々感が…骨々が…も~あきまへんわ!

 しかし――
 行った先で新しいタウン誌を見かけたら反射的に買っちゃってるわしですけどね。
 大抵のタウン誌のグルメ情報って,重複してるもんなんですわ。有名店はどのグルメ誌面にも登場する。だから,こっちの姿勢が変わらん限り「制覇」できるのね。都市の大きさは関係ないよ。大阪だって東京だって同じ。押し寄せる人の数が違うだけでね。
 けど。
 どーも京都だけは勝手が違うっぽい。
 山ほどグルメ誌出てるのに,買う本ごとに違うメンツが大半なの。おそらく,店の層が違うのプラス,切り込み方次第でいくらも違う店が出てくるほどスタンスが多様なんだと思います。
 京都の市内マップ,新しい付箋を貼っても貼っても足りまへんねん!実は半年経過記念にこれまで見つけた店の決勝戦でもやろかいなとか思ってたんスけど…新しいお店情報が尽きないから復習してる余裕がない!
 わし自身の食の感性もとどまるとこなく変転し続けてるし…こりゃー行くとこまで行くしかなさそうね!!


▲煌庵 前菜6種プレート

 四条烏丸から徒歩5分,煌庵。やや高級な中華の店。
 ランチ(1300円)を注文したら…出るわ出るわ!量はちょびっとずつだけどこんなに来ちゃいました!
前菜6種(冬瓜の冷やしカニあんかけ,水菜サラダ,枝豆のスープ,胡瓜とトマトの漬け物,鶏と魚卵の醤油煮込み…あと1つは忘れちゃった)
和牛カルビと万願寺唐辛子のオイスターソース炒め
ライス
カボチャとマンゴーのプリン
 上質さでは美齢の域には至らないと感じたけど…京都地場の産品を使った創造性,何より上海も四川も時には和風チックなのも織り交ぜた中華の多様性では,なかなかヤリはりますなあ!!
 前菜6種は6分割された重箱で出た。最高だったのは冬瓜のカニあんかけ。冷やしてるのにあんだけ淡くて深い妙味を何で残せるんだろ?鶏肉と魚卵の合わせ技ってのも初めて食った。
 あと,トマトの漬け物も初体験だったけど…素晴らしいもんだ!この後池政の軒先でも販売されてたんで,中華にも和食にもない新食材だと思う。池政の爺ちゃんに聴くと「へえ,最近はトマトも漬けるらしいですわ」って覚めた口調でサラリと言われちゃいましたけど。
 メインは和牛カルビ,万願寺唐辛子,オイスターソース,この和風洋食・京風和食・香港中華のスーパースター揃いの豪華さは巨人軍並みにやり過ぎです。月一度の食体験としては…ええモン頂きましたあ。って感じ?ビグザム並みに圧倒的な破壊力でした。
 ただ…ギラギラし過ぎ!日々食えるメニューじゃない。この事は本章の最後で再度触れましょう。


▲煌庵 メイン・和牛カルビと万願寺唐辛子のオイスターソース炒め

 さて我が京都標準,錦いけまさ亭です。
 7月のお膳。
 ますます夏の風情を醸してまいりました!
 焚合せ。今月は青ガラスの器です。これだけは毎月出るいけまさ亭主力商品なんだけど,器はもちろん食材もどんどん変わっていく。今月は,ナスがほとんどゲル状にドロドロのくたくたになって入ってて,涼やかなお味。
 新蓮根のミンチ挟み揚げ。油モノから離れちゃってるわしだけど,コイツはカラッと揚がっててミンチもどーなってんのかギトギト感があんまない。
 そして,この淡い食感に抑えられてるミンチと絶妙にマリアージュしてんのは――蓮根。ちゃんと土臭く高貴とも言える香りを放ってる。
 これらが付いてなお…湯葉豆腐のお吸い物。ハモ御飯。お漬物。――もうこの3品だけで満足できそ!湯葉のお汁はホント繊細この上ない境界線上の美味。毎月軒先で買って帰るようになった漬け物は,もちろん野菜の味わいが生き残ってる生野菜レベルのみずみずしさ。
 それで,先ほど触れたハモご飯!淡く深くじんわりと米粒に染み出した魚ダシに,骨々したシャリシャリ感が…もーたまりまへんなあ!
 今月もごっつあんでしたあ!


▲錦いけまさ亭 7月のおばんざい

 8月の予習。
焚合せ
牛肉のたたき
夏野菜の天麩羅
いちじくのワイン煮
白御飯
お漬物
 天ぷらは前にも出たからまあ絶品でしょうけど…たたき?しかも牛肉?ワイン煮?しかもイチジク?さあ来月は何で驚かせてくれるかな?

 キムチのミズノで,カクトゥギとかわはぎのキムチを買いました。
 東西線の二条城前で降り,今回下の句で取り上げるイタリアンの店に向かう途中に出くわした店。
 京都には,在日コリアンの人たちが昔から相当数住んでる。それは映画「パッチギ!」で周知の通り。だから韓国料理も美味いよな気もすんだけど,なぜかまだ機会がない。
 軒先の新聞記事では少し有名っぽいんで,一応チェックしてみる。
 ノーマルなカクトゥギと,あと少し変わったのを…え?カワハギ?
 「酒のつまみに最高ヨ!」ってお婆ちゃんが言うからそいつに決め。
 帰って食うと――日本が長い人が多いのか,鶴橋のよりはかなり食べやすい。日本人向け。ただ,辛味の鋭さはスーパーのとは全然違う。…段々気になってきてます。
 目的のイタ飯屋には満席で入れまへんでしたけど…ここまで来たら,ついでにすぐ南の三条会商店街へ足が向く。
 結局この三条会のサラサ3で腹を満たしたんだけど。それはともかく――この商店街やっぱり最高ね。
 やはり相当数の往来があるこの「京都一長いアーケード街」,今回はガンガンにテーマ曲が流れてます。
♪京都へ来たらまずここ!三条会~
 んなムチャな…京都駅から三条会商店街に直行する人って…もしおられたら夜を撤して語り合いたいのでご連絡をお待ちする。

 烏丸線北川駅から地上に出ると,夕立が上がったとこでした。
 西へ5分。植物園の北西角近くに,ワンちゃんたちがギャンギャン吠えてるDOG GOODS SHOP yippeeってちょっとオシャレな暖色の平屋建のペットショップがありまして,その中庭に入っていった奥に見えてくる古式ゆかしい土蔵風の建物。
 じん六――何かプリンの中に梅干しが隠れてたよーな可哀想な配置ですが…。
 横戸を引くと,客のいない店内。簡易ベンチと座敷が3つ程。天井は高いものの,こりゃまたエラくシンプルな…道の駅と間違えそう…
 そこのメニューに,蕎麦三昧1250円?――まさかぼったくりじゃないよ…ね?ちなみにこれは普通盛り,大盛りなら1550円,特盛り1850円。そ…そば…だよね?変な粉入りの「ガ〇ジャそば」とかじゃないよ…ね?
 料理出しの小窓からギラリと睨む爺さんの,日本古刀のよーな鋭い眼光。
 や…ヤバい。絶対ガ〇ジャだよ。バイヤーに薬漬けにされてサラ金地獄だよ。
 ドキッ!…爺さん出てきよった…いきなりスドッと来るのか!?スドッ来た後「フッ…俺は刺すタイプだぜ…」の一言が,彼がその生涯で聞いた最後の言葉となった…【完】
 しかし幸い,爺さん許してくれたのか(?),焙じ茶をコトリと席に置き,にこやかに「らっしゃいませ,何にしまひょ?」
 微笑むとさらにドスがキく爺さんの獣性の瞳。わしの…次の一言が生死を分けるのか!?【次回に続く】
 じゃなくて…結局そば三昧にした。普通盛りで命ばかりは許してくれはった(だから違うって)。ちなみにメニューの注意書きには「三種類の異なる産地のそばをお出し致します」――どーも,怖い店じゃなくて,滅法真面目にそば作ってる店らしい。良かった…今日も生き長らえることが出来た。生きてるって素晴らしい。

 次々にやって来たのは茨城,長野,福井の蕎麦粉で打ったざるそば。
 まず茨城の蕎麦。東京で食った標準的な味に近い。でもやはりクリアな上質感を纏う。
 長野。少し土臭い感じで蕎麦の穀物臭がむんと来る。
 福井のは,繊細で爽快感のある軽妙な味覚で,喉にスルスル納まる感じ。
 ――と感じたけど,正直よく分かってないと思う。蕎麦を本気で味わったのって初めてだったんだもの…。
 ひいいッ許して爺さん!こんな未熟者でスミマセン…

 写真撮ってもただの蕎麦。ホントに何の飾り気もない。だから写真はありません。
 ダシについてたわさびも同じ。見かけ,普通のチューブわさびと区別できない。
 でも一口で分かる。鋭い辛味。市販のよりはるかにズバッと広がる辛さ…なのにあの「ツン」がない!思い切ってかなりの量を口に放り込んでみた。爆発的に広がる辛味に涙が出そ…だけどヤッパリ「ツン」と来ない。独特の豊かな香りだけが花火のような艶やかさと儚さで煌めいて散る。
 京都通いを始めて,徐々に慣れてきた調味料に山椒とわさびがあります。山の民の味覚。だから感じ取れるよになっただけなんだろか?わさびって…こんな旨味なの?
 じゃあ?あのチューブの鼻につーんの味は?わさびとは別の添加物なの?それとも単に安物わさび?
 混乱してると再三爺さんの来襲!今度こそ刺(もーいいって)
「そば茶でございます」と湯のみコトリ。
 へえ。半減減量時のノルマ1日2リットル水分摂取をやってるうちにお茶。中でもそば茶にはハマってます。家でもそば茶淹れるしね。
 けどこのそば茶は――次元が違ってた。味の深みが桁違い!市販のが児戯に思えて来る。これぞ穀物茶!
 これで流石に終わりかと思ったら,さらに伏兵!――そば湯。急須でドン!
 いやあこいつも味わったことのない芳醇な風味でした…3杯飲んでしまった。お腹パンパン。
 …客家のライ茶を想起させる濃厚感。ゲル状ではなくあくまでサラサラの舌触りなのに,味覚的には汁粉でも飲んだよな迫力が胃に染みる。
 ちなみに他のメニューは。
にしんそば1350円
そばがき600
ざるそば定食1550
 もー食えん!スゴい満腹感に自分でもびっくりするほど。

 3日目の午前中は,「Mono a mono」と「すぎうら」を訪れました。ともに高倉烏丸のすぐ近く,路地裏にある小さなお店。
 「Mono a mono」は渋いカフェ系,「すぎうら」は魚の旨い居酒屋系。全く違う方向性の場所で連発ランチを頂いたわけ。
 何で一緒にお話してるかってえと――出てきたモノのタイプがある意味意外に似てたから。
 「Mono a mono」では大皿にいわしの薬味漬け天ぷら,菜の花とシメジの煮物,ナポリタン,サラダが載って,プラス御飯とコンソメスープ。
 「すぎうら」では四分割の重箱にチキンカツ,麻婆豆腐,ひらめの干物,漬け物3種盛で埋めたのと,御飯にうどん。
 どちらも相当に美味しかったんです。「Mono a mono」は家庭的な味付けで特に菜の花とシメジはグッド。「すぎうら」は一つ一つがさり気なく丁寧な真の職人技で,何と麻婆豆腐が和風的にメリハリ効いてて絶品。
 美味しかったんだけど…うーん。やっぱ再訪は考えにくいかなあ。
 店は確実にイイのよ。技術の部分は,尖り過ぎずに丁度いい。京都通いを始めた頃ならどっちも絶賛してたはず。
 なのに…コイツ(わしだけど)何が不満なんだ?
 ふいに思い出して納得したよな気がしたのは,「第1回豆腐王座決定戦!――川島豆腐vs佐々木豆腐」の時のええ加減な思いつきの料理評点バランスでした。
 あの時の10点満点評価は――こうでした。
 技術  :1点
 食材  :2点
 バランス:3点
 遊び心 :4点
 いわゆる狭義の旨さ=技術をあんまり重視しないこの観点。半年前の川島豆腐の段階では少し過激に思えたけど,最近はほぼ自然なスタンスになってきたってことみたい。
 下の句で触れるイタリア料理とか,先月のフランス料理とかに惹かれる感覚はその辺から芽生えてきてるみたい。
 例えば煌庵の中華だって,単品としては明らかに最高の美味さ。以前なら手放しで金賞授与してたはずが,今は何ともバランスや秩序のない印象を持ってしまう。
 う~ん…深いものよのう!
 自分の舌の変化を空恐ろしくは感じてきたけど,さらに広範に食に対する感覚そのものが地殻変動の真っ最中みたいッス。
 今一番興味深くて不可思議なのは――この自分の感性の変化。