本伝豪遊記07《豪遊∧7》博多アルティメイダム

2009-01-09 15:04

 アルティメイダムとは!?――最終通牒のことである。
 駄洒落で来ると思ったでしょ?へーんだ,そーそー思い通りにゃ行かないぜ!裏をかかなきゃ銭の華は咲きまへんえ,なあアンタ?菊江…お前は憎い奴よのう。アンタ…ムム~(熱い抱擁)
 さて,初手から読者に喧嘩売ったとこで,最後通牒です。
 博多の町に。
 ダラダラ浸ってきた博多賛美の食感育成紀行,もーそろそろ決着つけよやないかッ!って感じなわけさあ。
 とゆーのも。自分の舌がやっとこさ博多に追いついた手応えがあるからです。
 この町の食文化はヤッパリ素晴らしい。素晴らしいんだけど,大阪,名古屋と同じく,それはB級グルメの輝きみたい。減量前からそのB級グルメを賛美してきたからこそ博多ファンだったんだけど――ここへ来てわしの舌が,A級を求め始めた。ってゆーか,正確には,ギリギリA級を理解できる,そーゆー味覚世界の存在を認知したって段階。
 いや,もっと率直に言うなら――京都の前に博多が霞み始めたのね。

 この日,大名のグリーンホテル天神に泊まったのは,川島豆腐を満喫した唐津からのアクセスの都合だけでした。
 だから,地下鉄天神駅すぐ,天神西通りの北のどん詰まりにこの店を見つけたのも,全くの偶然だったわけさあ。
 わしたショップ――沖縄物産館。
 今までも何度も見かけてきた店だけど,正月の沖縄旅行を経た今回はすがるよな期待がありました。
 頼むから…食用ふーちばー置いててくれえ!
 ふーちばー,つまりヨモギは,大阪の大正駅近くの物産館にもなかった。大正の山羊料理屋の女将は島から送ってもらってた。だから諦めかけてたんだけど――
 それがわしたショップにはあったんです!!1束180円。頬ずりしたくなりました!
 もちろん塩ちんすこうもある。何と雪塩と石垣島の塩のどちらも揃ってる。ブルーシールアイスや紅芋タルトも当然ある,スクガラスやワタガラスまであるのよ。
 那覇で見つけた沖縄ちゅらサウンズのWebがあるから,もう沖縄音楽に飢えはないけど,CDコーナーも完備。店内でかかっててハマった「しゃかり」を購入してしまう。
 結局,博多滞在2日間に3回お買い上げしちゃいました。
 最大の収穫・ふーちばーに話を戻す。やはりこの店で購入した山羊汁のレトルトを,宿の電気加熱器で煮たとこに,手で千切ったふーちばーを投入――これだけで,まあ山羊汁に似たものが出来る。チューブ入りの生姜で味を整えれば更に近づく!

 しかし――最近気付くよになった。明治通りのこの大名辺りは,何とも多彩。いかにも博多臭い警固交差点から薬院,柳橋市場辺りとまた異色のエリアです。
 明治通りの道路の下を走る地下鉄空港線。そのまま乗ると西新を抜けて唐津まで行ける。
 これを天神駅で降りて出口を出ると,すぐ先述のわしたショップ。
 ここから西へ,天神西通りを渡ると大名町カトリック教会。信心深いクリスチャンがたむろするこの建物には,セント・ポール福岡って教会の本屋がある。わしはカトリックの大学卒だし,今は教会専属歌手・久米小百合として活動する「異邦人」の久保田早紀のCDを探しにうろついてみた。残念ながらそれはなかったけど,キャンドルとか絵本なんかはここにしかないのもありそうだったがや。
 さらに西に歩くと,博多で一番知られたロシヤ料理屋・ツンドラがある。ロシアではなく「ロシヤ」ってのがイイよね。1,750円位のランチもリーズナブルだけど,ザウアークラウトとかロシアンティー用ジャムの小売りもしてる。ここのザウアークラウトなら十分1食のおかずに出来る。
 その西隣がこの日の宿グリーンホテル天神。これ自体は特徴のない安ビシホだけど,わしはこの素っ気なさが好み。福岡空港から海外に出る前泊には,なぜか駅前かこの天神のグリーンがマッチする心境になるんよ。
 天神グリーンの1階にはトラベルカフェって店が併設されてる。昼はエスプレッソがかなりイケるし,夜はバーとしてイイ感じ。なぜか白人も多い。
 その西側の路地を少し入ったとこにMimi-Spa。最近多い和服のお姉さんの膝枕で耳掻きみたいなライト風俗じゃなくて,耳掻きの先のマイクロカメラで耳垢を完全に除去してくれる耳のケア専門店です。2か月に1度は通ってる。
 この路地を西へ渡ると珈琲舎のだ。コーヒーやお茶請けも旨いけど,何より雰囲気が懐かしい。白シャツに黒ベストのオヤジが粛々とサーブしてる。今時珍しく全席喫煙席ってのもポイント高い。
 これを過ぎて明治通りをさらに西進むとフランス菓子のジャック。常に客で満ちてる菓子屋。この位盛況なのは,博多座裏のチョコレート・ショップとここくらいじゃねえか?流石にどれも深くバランスのいい甘味。
 ここから明治通りを南側へ渡ったとこにスタバがある。このスタバから,地下鉄赤坂駅の出口はすぐ。
 とまあ,その魅力もともかく,これだけの異色なものがズラリ並んでるのは驚きじゃない?
 そりゃあ東京とかもっと異色なショップは多いでしょけど,それはもー少し地理的に散らばって各々が固まって存在する,いわゆるモザイク状態。――博多の大名では,それが店舗単位で隣り合わせの,いわゆるルツボ状態なんだぎゃあ!
 調べる限り,福岡県の外国人は人数でも割合でも決してべらぼうに多くはないみたい。
 てことは,これは都市の包容力の差なんだわ!異質なモノが平気で,つまりそれぞれ尊厳を持ったままにルツボ状態でいられること。
 わしは,全ての差別の問題は,人権教育や無理やり異質性を封ずる対策なんかより,むしろ互いに異質を誇れるこのルツボ状態が望ましい解決だと思ってます。みんな違ってみんなイイ!って奴ね。
 てゆーか!その状態が一番誰もがハッピーでしょうが!!

 晩飯に薬院の王丸食堂でブリ煮付け定食を食った後,天神グリーンで1泊。
 その翌日。
 何となく――この長い博多シリーズも最後って予感の日曜日。予定はあえて定めず,旅心の向かう所へ好きに歩いてもらうことにしました。
 朝8時,港の魚市場ビルまで歩く。24時間営業の海鮮食堂で,鯛のアラ炊きを頂きました。素材では魚は食い慣れてる広島人としては,やっぱ博多の魚は煮物に惹かれる。そんで…やっぱ感動のお味でした。
 赤坂交差点まで戻ってスタバでいつものエスプレッソのア・ドピオをゲットし,煙草休憩。
 10時を待って西鉄天神駅前のアーケード内にある健美園へ。中国人按摩師ばっかのマッサージ屋。気持ちいい系じゃなく押すべきとこは遠慮無くグイグイ押すアルよッ系(何じゃそりゃ?)。足裏30分でスッキリ。
 時間調整はCafeTeco開店時間11時が狙い。天神からCafeTecoの上人橋通りまで早足で10分強。ここは12時には満席になるからこの時間がベストなのじゃ。
 今日は野菜のポトフをメインに。一応フランス料理系です。ホント,この店の小娘ども(失礼!)のメニュー開拓欲は留まるところを知らないって感じ。厨房を眺めてるだけで,料理作りの遊び心が弾け飛びまくってんのがハッキリ判る。それが硬化してドグマ化した老舗なんかより,はるかに食って楽しいメシです!!
 この流れで大橋のボンジュール食堂に行くのも一案だったけど,結局足は北へ向かった。ボンジュールはわしにとって「フランス料理の学校」ではあったけど,CafeTeco的なオーラには乏しい。かと言ってミランやエベレスト・キッチンも,レベル的には最高級だけど遊び心ではなく完成された技。それが感じられるメシ屋をもう一つ選ぶなら――
 正直,ここを自分が選んだことに,アタマではちょっと驚きました。


▲ガムランディー入口。それでは分からんぞってほど,こてこてタイランド

 大名のガムランディー。ちっちゃなタイ料理屋で,失礼ながらそれほど流行っちゃいない。雰囲気の良いタイ料理屋は博多にはなぜかたくさん有り,ここはそれらに比べてかなり安っぽい。
 けど,間違いない。味はここがダントツ。そして味だけじゃなく,食材とそれに合わせた工夫がどの料理にも滲んどるとよ。だから,スパイスや香菜使いは他と同じでも,それに負けずに野菜が自己主張するだけチャンと土臭く匂い立つ。
 これまで何百回とカレーは作ってきたけど,恥ずかしながらこーゆー発想はなかった。今度,有機野菜か高知とかの朝市の野菜をタップリ入れたスープカレーを作ってみよう。

 天神東宝。時間潰しのつもりで「誰も守ってくれない」を見る。
 加害者家族のマスコミ被害のお話と思って見始めたら――確かに始めはそうなんだけど,半ばから佐々木蔵之介演ずる敏腕記者を追い抜いて,犯人の妹・志田未来を徹底的に追かけるのは――
 インターネットです。具体的には,サイバースペースで交換される無慈悲で無・倫理的な好奇心が,佐藤浩市の刑事が妹をどこへ連れて逃げても,執拗に追跡する。
 フラット化世界が牙を剥いた時にゃあ,こんな恐ろしい相貌を示す可能性があるわけだ。…とか言うわし自身が,ケータイ握ってガンガン打ってるって矛盾。
 晩飯に,中洲のお通で雑炊を食う。そんで――ついに博多を後にしました。
 半減体験という武器で,まだまだわしは旅を続けなきゃならん。リバイアサンに対抗できるほど,わしはまだ武器を使いこなせる域に至っちゃいないんだから。