外伝02-5중국집:《第五次初日》チャンポンの日

[今期首]/負債1038
[今期中]
1150 カマソッ(南浦)
石鍋ポッサム定食 6000
1230
パッピンス
(サービス)タンパッチュク 150
1415 ウォンジョ(元祖)チョバンナクチ
ナクチポックム 500(1250)
1610 香港飯店
チャンポン550
1705 ミョンジ・ベク・バンアスカン(徳川の市場)
何かお餅 100(1900)
[今期計]
消費1800/収益1900
負債 100/
[今期末]/負債 908

 大の字の観光である。やはり夏の京はこれ無しには終わらない。
 もとい,第五次の韓国である。
 さすがに読む方も飽きて来られたと思いますが,しかし!!今回は一味違う!
 まあ一味違っても二味でも,食い倒れの話に違いはないんですが…今回は一応テーマがあるんであります聞いて驚くな!
 韓国の中華料理とは!?──これであります!!
 まあ…やっぱり飯の話に違いはないんだけどね。

 ビートルから降りるやチャガルチに直行,11時40分,常宿ヘリムモテル(モーテル)入居。
 チャガルチを,連休に入って観光客だらけになる前に歩いとこう…という企画で,ここも明日から日本人が群れるであろう「ガマソッ」へ。
 どうでもいいが,この語感は何とかならんのか?
 広く庶民的ないい空間です。座敷で食します第一食目。

▲ガマソッの定食


②③④⑤⑥⑦
⑧⑨⑩ ⑪⑫
⑬⑭

 おお!!久しぶりの丸番付きお膳マップである。というか,韓国以外ではほぼ必要ない形式ですが。
①大根葉っぱ付キムチ
 小ぶりな,二十日大根より少し大きめの大根の丸漬け。
 微妙な甘味とキムチの辛味が絡んで…これは止まらない。
②野菜
 ザルに一杯!白菜とレタスと青唐辛子。レタスはちょっと細身。かなり鮮度のいい品で⑨の味噌をつけると…これまた止まらない。
③ハンペンキムチ
 日本のハンペンよりさらにフニャフニャで,すり身そのものみたいな素朴さがコチュジャンと絡まって…いやあ止まらないなあ。
④イリコキムチ
 これ日本でどうしても作れないんだけど…ニョンマムがイリコに絶妙に染みてます。これも止まらない。
⑤豆腐チゲ
 貴州並みに陰険な味覚。半ばまでは変わった味噌汁やなあ…という感じの優しい味わいだから,止まらない。
 止まらないんだけど,最後にグッと青唐辛子の強烈な辛味がこみ上げてきまして,止まらざるを得なくなる。まして混ぜ込んである青唐辛子本体を口に入れてしまった時はもう…ヒーである。
⑥魚
 川魚らしき小さなものが薄いニョンマムの汁に浸かってる。臭みのない白身がほろほろと舌に崩れて…ううむ止まらないぞ。
⑦大根水煮
 ごく小さい,けれど身の柔らかいエビを混ぜてあり,これから出るんでしょう,甘い香りが大根の淡白な味わいを包み込んでまして…止まりませんぞ!
⑧オコゲ汁
 韓国伝統の飲料だろか?オコゲの香りがまろやかに香り立って…止まらない。
⑨味噌
 韓国味噌。野菜をつけたらもう止まらない。
 辛味の調整ゆえか,日本のではこうはいかんのだよ。中華にもこういう風習はないし,寄生虫を考えると韓国でも新しい食法だと思うが?
⑩カンジャンケジャン
 硬いけど噛める。魚っぽい味覚だけど磯臭い…と舌の記憶を検索すると思い出せた。特にカニミソの部分にニュンマムが絡まると何も言えない。止まるわけがない。
⑪ワカメと菜っぱ
 これも奇妙に美味い。わずかに煮込んであるっぽいけど…何だかもう止まらない。
⑫ポッサムとペチュキムチ
 脂身がほとんどなのにサッパリしててて,豚の脂の香りだけが臭い立つ。素晴らしいの一言。止まるわけがない。
⑬栗御飯
 意外に薄い香りながら,栗が重低音で響いて…またまた止まらない。
⑭もやしキムチ
 もやしを扱わせたら韓国に並ぶ民族はない。これもやっぱり止まらない。

 東莱へ向かう列車で,いきなりの車内売り子。密かに心待ちにする釜山名物である。
 腹巻きか,ウェスト痩身グッズの販売らしく,キャリアに箱を載せたオヤジがさっきから大声張り上げながら何度も着脱されてます。
 おっと?かの腹巻きオヤジ,東莱間際で再び戻ってきて…大演説を再開しましたよ?喋り足りんかったのか?
▲元祖チョバンナクチのナクチポックム

 やっぱりここは素晴らしい!来る度に凄さを再認識します。
 貴州以後の舌だからかなあ?今回最初に感じたのは,深い,深~い甘さだったんでした。
 以前この店で「こんな辛いもん食えん!!」と投げ出した日本人の旦那様が,片や感激モードの奥様と結構本気で喧嘩し始めたことがあったけど…あの御夫妻は健やかにお過ごしでしょうか?──はさて置き,ともかくそれほどには辛い。
 だけど,そういう辛さ自体は,味覚として重視しないような舌になってきたらしい。
 もちろん,タコの微かに生臭い甘味はある。後半でパブに混ぜ込めば,米の複雑な穀物の甘味もある。けれど,これらと合わさった時に本当に甘く感じるのは,他ならぬ──ニョンマムそのもの。
 自分の舌ながら,どうも…そう味覚してるらしいんである。
 辛さの根元が実は甘さの本質でもある。こんなことがホントにあり得るのか?
 甘い辛味とでもいうんだろうか?甘さの種類として言えば,濁った重みみたいなものとして感じられる辛味というか…豆や雑穀類の複雑味を甘いと感じる味覚というか。
 そういう意味では──ひょっとしたら,韓国人は唐辛子という調味料を,「甘味」の一種として受け入れていったのではないか?
 …日本語の語彙的には訳分かんない言い方だけど,そういう感覚が今のわしには違和感がない。例えば──このポックムにも入ってる春雨。一緒に入って溶けかかってるもんだから,煮詰まるごとにタコの衣みたいになっているコレにも,ニョンマムはしっかり染みついてます。
 これだけ取り出しても普通のチャプチェ以上には美味いと言えるでしょう。
 でもこの春雨の甘さ…これも,明らかにニョンマムによって引き出されてます。いや,引き出してると言うよりも,春雨と複合してワンランク上の甘さを創り出していってるわけです。
 あるいはその2つは同じことなのかもしれません。

▲ナクチの鍋

 15時35分,東莱駅の4号線ホームから美南経由で西行。
 目指したのは,名前だけが前から気になってた街,徳川(トクチョン)。──第三次で乗換時にたまたま降りた際,「江戸期に絶対に名称変更させられとるであろう地名」と触れた駅です。ここに,この回と次の回で計2回ずつ足を運ぶことになりました。
 おそらくは,日本のどんなガイドブックにも載ってない街。韓国中華で検索して住所がヒットしなければ,わしも足を運ぶ気にはならんかったと思います。
 ホームは地下4階。しかも潜った割に,エラく短いホームです。ただし,石畳を敷き詰めた豪勢かつ最新鋭っぽい施設。
 これが地下第一層まで上がると普通の地下鉄駅になります。ジャンクション駅なので地下の商店群も発達してる。
 地上へ。かなり大きな街。繁華街というほどじゃないけど,緩い傾斜に商店がビッシリ連なっており,生活感を醸し出してます。
 道路を挟んだ向こう側に渡るとさらに生活感の濃い市場エリアに入るのですが,それは後刻の講釈にて。この初回の徳川では,とりあえず検索して来てた香港中華の店・香港飯店(ホンコンバクチェム)へ急ぎました。

▲香港飯店(ホンコンバクチェム)のチャンポン

 残照の鮮やかな坂道の上だったのを鮮明に記憶してます。
 この「中華」は面白い!
 ハングルで何て言えばいいのか不安だったけど,まんま「チャンポン ジュセヨ!!」で通じました。てことは日本を真似たはずで,正確に言えば…さらに訳分かんなくなるけど,いわば韓国風日本中華ということか?──そう言うならば,例えば日本のカレーは日本式英国風カレーなわけだけど。
 見た目は聞いてた通り真っ赤っかのか。ミル貝が乗っかって豪勢ではあるけど,わしコレ嫌いだし。
 面白いのはお味で…基本,どこまでもニョンマムなんだけど,ミル貝だけじゃなく具は多彩極まりない。
 じゃあチゲか?と言えば,これは…全く違う。あんな清浄な辛味じゃなくて,うっすらと,しかし根源的に…福建料理。柔らかく,けれど香港よりは一つ浅い,日本の出汁に似た──魚汁を基調とした味わい。
 けれど日本のチャンポンに比べると,八幡浜チャンポンよりは福建色は強いくらいです。
 なのに,ニョンマムを使ってるという点では,もうどうしようもなくコリアンで──何が何だか分からなくなってきてます。きてますが,生活者にとっては単にインプットとアウトプット。何が原型で,どういう経緯でやって来ようとインプットはインプット。
 問題はそれを──この場合は,おそらく日本風福建料理を何がこう変えてきたか?ということ。あるいは,何が変えさせなかったか?──この場合は,日本風の中に既に薄かったはずの福建色を。
 このタイプの味なら,メニューにあるボックムチャンポン(炒め又は汁なしチャンポンだろう)というのもの方が美味いかも?…とかいつしか再訪まで考えてしまいました。
 とにかく面白い!
 徳川の交差点東南側に遠目アーケードみたく見える界隈がありました。
 何となく予感を覚えて歩いてみたら途中から階段が降りて,その先にかなりの規模の市場が広がりました。
 アーケードのある生活臭むき出しの韓国市場。おしとやかで日本語だらけの国際市場とかと全く違う!例えば店頭でグラグラ鍋が煮えてるような。
 ここが次回に渡って入り浸ることになる亀浦市場でした。でも初回のこの日は「へえ!こういう知らない市場,まだたくさんあるのね」くらいにただただ圧倒されて帰路についてます。
 要するに,それなりの市場マニアが感動する市場だったわけで,ズシンと気に入ってしまったのです。

▲徳川で買ったトック

 お餅を韓国でトックと言う。
 それは前回のトックカフェシルで学んでました。
 そう知ってから市場を回れば,結構あちこちの軒先に並んでます。
 この日に購入したトックは──黒い水餅(栃餅に似た雑穀餅っぽい味)に栗とグリーンピースが入った,端正な味わい。夜のお茶にピッタリでした。
 段々分かってきたけど,韓国の伝統スイーツって…朴訥として厳かながら,絶妙なものがあるのでは?
 ただし,現時点知識ゼロだから何が何だか分からないけど。

 こうして見れば──この第五次初日は,その後の様々なこだわりの原点になっていきました。こういう幸福な日が,旅行の中にはあるものです。
 けれどそういう「旅行神の日」には,大抵,その時には気づかないもので…この日に残した記述も割かし淡々としてます。