油煳干青∈外伝12∈辣辣∋貴州編@第二日:黔州の辣八味にのたうつ 貴陽Ⅰ∋糟酸麻蒜

▲市場の大通り。[サ/祭]家街の夢記から中心部へ帰る道行きだったか。
 緩いを帯びてうねるような町並みです。

[前期末]
利益 200/積立 200
積立 964/負債 964
[今期中]
老牌腸[日王]面 300
金牌夢記腸[日王]面8元/300(600)
1300如意自助快餐店(環北巷)500(1100)
1830楊記(合群路)
金牌砂鍋飯14元/500(1600)
六甲雲[月退]月餅[金肖]点(噴水池南)
五仁,水晶11元/200(1800)
[今期末]
(利益 0/積立 0)
積立 964/負債 964

▲老牌腸[日王]面

 とりあえず 貴陽名菜 腸[日王]面
 朝一番で延安東路から南へ一本,三民東路という裏道に迷い込んだ。緩い坂道に市場が軒を成す。その角地にWebで当たってた目的の店,老牌腸[日王]面を発見。
 屋台が常設になった感じの粗末な店ですが,出勤前の皆さんがひっきりなしに臓腑に流し込んでく様は気持ちがいい。いい大衆店の匂いがある。
 碗が来た。
 三種の肉はどれもグロい。
 おなじみ牛の血液ゼリーは,韓国のよりさらにプヨプヨでスイーツじみた食感と暴力的な味覚の落差がたまらない。
 モツみたいなのは淡白ながら深い味覚。
 もう一つ,サイコロ状のクリスピーな肉塊,大阪のカスみたいな奴は,歯応えプラス異様な香りを醸す。
 それぞれ「猪血[日王]」「猪大腸」「[月危][口肖]」と言うらしい。
 これらを投じたラーメンは,麺は卵縮れ麺ながら汁は激辛。油断して啜ると,むせるような焦げ辛さに襲われる。
 ただし,慣れたら意外に淡白。後味はスッキリしてるから肉汁を使ってるわけでもなさそう。確かにこれは奇妙なラーメンです。
 バリエーションには豆腐面もあり。麺の代わりに粉にもできるようです。また,肉のお代わりという技もあるみたいですが…発音に自信がないなあ。
[2018年]この店を再訪したくて三民路を探索した記録:油煳干青∈5貴陽:三民路2∋糟酸麻蒜

 この足で[サ/祭]家街の有名店・夢記にも入ってみた。が,似たような味だったかな。
 人気店ながらこっちは少し下世話な味覚に思えた。ただ,粉にしたのは正解か?どちらかといえばこちらの方が卵縮れ麺より汁に合うように感じられた。

▲金牌夢記腸[日王]面

 ヒコーキの 票(ピャオ)を求めて 右左
 11時位からチケット売り場を探すが見つからない。途中のホテルにも取扱店がない,結局,昨日の民航売票場で切符購入。
 アウト便は明日15時45分発,廈門行き。一応調べてた便ですが,我ながらマイナー。
 12時ちょうど,新路口からバスに乗って北上。
 二階席には前方に電光表示で下[立占]の文字情報が出るようです。昨日歩いた大渋滞の夕方に比べると,それなりにスピードも出てる。
 シェラトン前と噴水池の北西ブロック逆側角と7天連鎖を見つける。近代生活的には全く支障ないんだがなあ。やはり勝手が違う。

 だんだらと 連なる坂が 徐々に来る
 噴水池でバスを降りて北へ歩く。
 そんなに距離はないんだけど,ここから北はかなり勾配がきつくなる。道路も緩くうねり始めます。結構疲れてきました。
 12時半,合群路市第五中学前に羊肉粉と,「将家」という腸[日王]麺の店が大人気。でもどっちも何か入る気にならんなあ…。
 それで,この旅で一番参考にした「[口乞]尽天下」がベタ誉めだった貴州飯店を目指してました。やっとその建物を視界に収めたとこで,半露店の[ロ乞]飽到を見つけてしまう。昨日の流れでついこっちを選んでしまったわしは…利口なのか馬鹿なのか?
 けれどこれが,我が貴州料理体験の最大インパクトになった一食。そのことだけは疑いようもない,そういう一善になったんでした。

▲如意自助快餐店(環北巷)の[口乞]飽到

 七色の 辛さに震えよ 貴州メシ
 店名:如意自助快餐店(環北巷)
①白米
②ジャガイモ煮込み
③白菜煮込み
    ④蕨根粉
⑤菜っぱの煮物
  ⑥豚肉納豆炒め
    ⑦人参シリシリ炒め
 500mlペットを半分飲み干してやっと落ち着いた。
 蕨根はついに最後の一口は残してしまった。辛さに音をあげたことは数えるほどしかないけれど,この辛さは…。
 蕨餅のあの蕨です。ホロリと軽やかなあの味わいを殺さないまま,暴力的な酸っぱ辛い唐辛子のソースがこれでもかと舌を刺し続けて来る。あの執拗な辛さは許してくれと言いたくなる。
 蕨ゆえにクドさや深みは一切ない。ただただキリキリと辛い。小気味良いほどだと言いたいけど今はとてもそんな余裕はない。
 ジャガイモも菜っぱも辛くはない。ただ,なぜか奇妙に美味い。出汁が染みて,とか和食的な旨みでも中華スパイスでもない。何だろう…と味わってくと,ほのかな酸味?酸味とは言えないほどまろやかだから意識に上りにくいほど丸い味覚です。そしてその下地に重厚な辛さ?唐辛子辛さと感じられないほど重振動な辛さです。
 この下味を味覚が感じとり始めてからです。辛さの七変化とでも言うべき辛味地獄が始まったのは。
 人参シリシリ(千切り)も甘さを帯びた人参で,先味はまるで辛さからは程遠い。けども味わい進むとビシッと細く斬り込んで来る辛味がある。
 豚肉は,多分豆鼓というものだろう,糸の出てない納豆みたいな味わいの渋い味わいの豆と紅油で炒めてある。深みのある肉汁味で,一番おかず的に食べれました。けど紅油の底から,回鍋肉どころじゃない焦げ唐辛子の辛味が海嘯のようにグググッと立ち上がってきて…。
 違う辛さだから暫くは舌が休まる気がする。それが敵の(敵じゃないけど)巧妙な罠なんである。
 終盤になって気づけば,どれを食べても唐辛子を感じる地獄の「辣」包囲網のただ中に孤立無援で集中砲火を浴びてる自分に気づかされるのである。
 ヒイ~!これはスゴい!というより…ヒドい!まさに360度,逃げ場のない辛さ!

 思い知った。──本当の辛さってのは,唐辛子の量の足し算じゃないんだな。
 七色の唐辛子使いのフォーメーションというか,相乗効果というか,とにかく掛け算の辛さ。
 このお店,昼間だけ,路端に簡易テーブル出してる店らしい。ゲリラ屋台とでも言うのか?店舗はあるんだけど,中に客が収まりきらず,歩道にテーブル出しちゃえ,とかやってるうちにそっちがメインになってしまった…といういかにも中国無法ワールドなお店。客層はほぼ近所の労務者,昼休みにどやどや集まってきて掻き込んでくような店です。つまりは…おそらく庶民の味覚感覚に一番近いんでしょう。
「辛くないのを恐れる貴州人」という謂いの意味が分かったような気がする。おそらく──彼らに「辛くない」選択はないんである。そうじゃなくて「どの辛さか」「その辛さをどの酸味でアレンジするか」が問題なんであって,「辛くない」のは問題外。
 こ…ここまで辛いのばかり食ってどーする?何か嬉しいのか?──と呆れたくなるほどです。
 でも今は――やはりまだそんなこと冷静に考えれる状況じゃない。口の中の超新星が未だ断末魔のブロミネンスを噴き上げてます。
 ヒ~。

▲楊記(合群路)の金牌砂鍋飯

 一個でも 発酵トマト by俊ちゃん
 体も胃腸も疲れたんで(それでも途中スーパーに寄ったり色々してしまったけど)一旦宿に帰って一寝入り。
 ちなみに足の裏には日々豆が出来て潰れて…といういつもの状況になってきました。中国は薬局があちこちにあるんで,毎日,邦迪(bang1 di2。バンドエイド)を購入して足裏を修復しとります。
 夕方,再出撃。未練がましく合群路を徘徊してますと。
 こういう屋台街には,表側の店とは別に生活者向けの裏メシ屋があるもの。場所は,一本裏通りか脇道,あるいは出入口の近隣。
 この「楊記」は合群路の脇道に入った見えにくい場所にありました。通り側をオープンにした,店というより気さくなスペースです。
 満席じゃないけどほどほどに客足が絶えない,いい感じの地元感。
 店名表示には「凱里」と付いてます。通りまで発酵臭が漂ってて…事前情報はもちろんゼロですがこれは賭けてもいいでしょう?
 注文は
金牌砂鍋飯14元
をチョイス。メニューは全5種で,あとは土豆8,[豆宛]豆10,三鮮10,排骨12と続いてます。それぞれ麺か飯かが選べる。おそらく酸菜魚の一人判に一番近いのは三鮮でしょうがそれ以上の特別版か?…と期待しまして。
 18時半を回る。表では,道路法か何かの許可時間だったのか,ドッと飛び出した屋台機材群で交通が大混乱になってます。
 店内に注意を戻して周りを見ると,一人版の砂鍋の中に赤を帯びた汁。そこに麺又は飯がタプタプに浸かってて,これを混ぜくって,脇皿に骨を出しながら貪り食ってます。
 これだよ,これ!
 しかし――来た砂鍋を見て愕然![イ子]かと思うようなご飯の上に具がごろついてるだけ。何で?なぜワシのだけタプタプじゃないのよ。
 …周囲をキョトキョト盗み見ますと,付属の金碗の赤いトマトスープ,これは食前のスープじゃなくて,メシにぶっかけて食べるもんらしい。
 つまり,これは[イ子]の腐りかけトマトぶっかけ飯なんである。
 食う。
 おお!イケてるがな!
 トマトの酸味が効いてるわけだけど,やはり単なるトマトの地味じゃない。飯にビシッと合うまろやかな,というか,その時のイメージとしては,乱視的にブレたような…3Dの画面をメガネなしに見たような…書けば書くほど分かりにくくなってるけど,とにかく微妙かつ未知の違和感を感じさせる舌触りの酸味――これが発酵の力なのか?
 具は,目玉焼きとウズラ玉子は賑やかしとして,排骨,緑豆など至って堅実な面々。トマトも時折出くわす。唐辛子の漬け物もトッピングで入れられるようだけど,昼間の衝撃からちょっと控えとく。
 これだけで,十分過ぎる感動的な味覚が作られてるんである。
 京都の錦で,「トマトの漬け物」というのを買ったことがある。けど正直,ここまで料理を支配できる力強さはなかったと思う。発酵してるってだけじゃなく,発酵をコントロールし,かつ生かしていく熟練がないと…この味作りは無理です。
 そういえば。「[ロ乞]天下」の貴州料理の総評に,この菜系の最大の特色は発酵味の活かし方だと書いてました。単なる辛さではなくて。
 これを昼間の一食の印象と合わせると──
 つまり,発酵という次元を加えることで奥行きを拡げた多彩なる辣。
「辣」の七変化と書きまくってるけど,実は中国人は7ではなくて八種の辣を数えてます。その中に糟辣(糟漬けトウガラシの辛さ)又は酸辣(すっぱく辛い)というのがある(「香辣」(香り高く辛い)との表現も有)が,これらは,苗族の食文化をルーツとする発酵が,辣と融合した形態。
 アメリカ大陸から渡ってきた唐辛子食い(a)と,ユーラシア大陸の山懐の発酵使い(b)が,中華の料理体系(f)のパラダイム上で核融合してる。
(貴州料理=f(a,b))
 もっとも──8種の辣の中には「[火胡]辣」(焦がしトウガラシの辛さ)というのがある。スーパーで「貴州特色」として「[火胡]辣粉」というドス赤黒い粉のパッケージが陳列されてたんで,一袋買って帰った。帰国後半年以上重宝したが,この「焦げ味」嗜好なんかは,韓国のお焦げ食(米の場合のヌルンジ)と並列する何かに絡んでるかもしれない。
 あるいは前掲の酸辣も,発酵食ではなく香[酉告](中国黒酢)と関係するかもしれないし…何が唐辛子に掛け合わされたかの特定は難しいだろう。

 黔味の 謎は深まる 茅台酒
 夜。
 養身[火畏]湯という店(料理)があちこちにある。時間を問わず常に客の入りがあるようです。店内を覗き見ると,何か小壺みたいなものから湯をすくいながら[イ子]か砂鍋みたいなものを食べてるんだが…?[火畏]は福州料理圏の沙県の古意だと記憶するけどこの頻度といい何なんだろう?──結局,遺憾ながら入る勇気が起こらなかった。
 今日街中で買った月餅はかなりうまかった。蓮と豆みたいなのがアンに入ってて,甘みに飽きがきません。中国茶の受けにもバッチリ。
 この夜のお茶は「[シ眉][シ西/早]毛尖」。緑茶だけど中国茶らしい硬さがいい。中華北路沿いに「星力集団」というスーパーがあったんで視察しついでに試し買いしたもの。
 ただそれよりさらに,同じく試し買いのマオタイ酒のミニチュア小瓶が素晴らしかった。中国酒はどうも…だったんだけど,こいつはいい。強い酒だけどフルーティーな甘みが最高です。
 ますます謎は深まるばかり。何なんだろう,この土地は…!!
 とても文化の交わり合う位置とは思えないこの土地に,これだけの引き出しを備えた食体系が出来てしまってるというのは…一体どういう奇跡なんだろう?