外伝09♪~θ(^2^ )香港東部戦線編 第三日

▲くすんだビルディングを見上げて

 地下鉄が動き出した――途端に気付く。
 腕時計は!?あッ,部屋に忘れてきた!
 旺角駅発車。携帯で確認すると7時10分。
 疲れがどうも抜けない。香港の雑踏を延々すり抜ける日々は,結構体力を奪う。
 今日は5月1日。メーデーの今日を過ぎると大陸中国からの観光客は減ってくるはずです。
 ただ,まだ車内は空いてる。日曜日だから?
 向かい席,黒・赤・緑のナップサックを前に抱えたおばはん3人組。香港おばはんの例によって,よく口が動くねと誉めたくなる位にやたら喋りたくってるが…何ともカワユイ出で立ちではある。
 今日はとりあえず湾[イ子]に向かってる。[竹/肖][竹/其]湾なる全く読み方が想像できない町まで行ってみるつもり。
 香港島に入る。金鐘で乗り換えて湾[イ子]着。――読み方と言えばこの湾[イ子]の「ワンチャイ」もどこかカワユイ。
 地上へ上がると朝の光。通りがかったおばはんがいきなりタイ語で会話。やはりこの街,やたらタイ人が目立つんだけど…なぜなんだ?
 懸案の謎を引きずりつつ駅前路地裏に分け入る。目的の金鳳茶餐廳は割と簡単に見つかりました。
 店内に溢れる通勤者らしき地元人と並んで[女乃]茶と菠蘿包(パイナップルパン)で朝ごはん。香港庶民の平均的な外食朝飯っぽい。計17HK$。

▲湾[イ子]クイーンズロード沿いに古びた廟

※後日注:洪聖古廟
Hung Shing TempleGM.→巻末小レポ参照

 香港島北岸の街は,トラムを軸に回ってる。
 トラム道は東西に伸びる。元より島だから,平地は狭く帯状に続く。
 多くの市街は,この帯に機能を集中させてる。ただ,現代の人間社会の常として香港島の街も拡大してる。拡大のベクトルは,日本の神戸や長崎,呉と同じく――山側か海側かしかない。
 前者の典型はセントラル辺り。山手側の斜面にビル群を無理くり駆け上らせてる街作りだけど,当然安全性は損なわれる。
 湾[イ子]や北角辺りの街は,どうやら後者。つまり山側のクイーンズロードの帯にあった元々の市街が,海側に埋立地が出来た後で移った形跡がある。緩い蛇行とアップダウンをしながら続く湾[イ子]のクイーンズロードには,写真のような古い建築が残る。対して,海側の街並みは整然として殺風景。
 快楽餅店はこの旧市街の小店。雑然としながらも精一杯小綺麗に片付いた店内。もう何度目になるんだろう?地図を広げなくても雰囲気でたどり着いた。
鶏尾包
ホットドッグみたいなロールパン
計7HK$位
 いつも通り,すぐ北の住居ビルの谷間の公園で頂きました。香港特有の透明な味覚のパン――これ,やはりとてつもない!

▲湾[イ子]の駅前市場に昔ながらの肉屋。赤色灯のみが不気味に輝く。

 湾[イ子]から港島線で東行。
 車内,満席。アジア系ムスリムのチャドル姿がえらく目立つ。
 [竹/肖][竹/其]湾という降り立ったことのない駅まで行ってみた。車内電光表示は気温26度,湿度86%。乗客の半数が下車しました。
 香港や台湾の古い漢字,繁体字(大陸中国で共産政権が簡素化した簡体字に対して)は,はっきり言ってケータイではムチャクチャ打ちにくいんだが,この3文字はシャウケイワン ShauKeiWanと読むらしい。日本人にはちょっと…無理な字です。
 駅前はハイウェイの重層化した,東京大阪の完全人工型ベッドタウンみたく何とも近未来的な光景――の中で,唐突に耳に入ってきたガキの合唱。
「イチニーサンシーアルソック!」
 ええッ?あのCM,香港でも蔓延しとんのか!?とある意味戦慄して声を辿ると――元気のいい子どもの一群。親が「もうッ歌ってないで早く車に乗りなさい」みたいなことを日本語で言ってる。どーも日本人の一団みたい。ここ,外人の住宅地にもなってるエリアらしい。
 さて,ここまで来た目当ては昨日買った地下鉄駅前のグルメ本に載ってた安利大排[木当]ってお店。
 マンションの影を抜けると,やや古い,落ち着いた風情の商店街に出る。そのド真ん中に発見できた。中途半端な時間だったけど満席近いから人気店らしいんだが。
自製魚蛋毎打(粉)26HK$
 香港の化学調味料使いに初めて気づいた店になった。後に,この味覚も香港らしいもんとして認識できるようになるけど――この時は大いにがっかりしたんで同じ商店街のもう一軒に足を伸ばす。
 潮香園。明らかに名店で,店内調度の使い込まれ方とオバチャンの威厳がスゴい!
坑[月南]河 21HK$
西冷紅茶 10HK$
 まったり。
 昨日の屯門と同じく,観光地じゃない香港にも当然だがちゃんと,香港チックな絶妙味はある。それを核心できつつある。
 通りには東南アジア系が目立つ。タイではないようだが,どの辺りの民族がメジャーなんだろか?
 小雨。降っては止んでを繰り返し始めた。

 [魚則]魚[シ桶-木],油[土唐]――と既に書くのが苦行みたいな漢字の駅で2度乗り換えて,九龍半島側に戻る。
 牛頭角。何ちゅー駅名やねん!?どーも香港人の語感って日本人における漢字のそれと大分違う。「牛の角」って世界一怖い怪談の話を思い出した。
 高架に沿って西行。車窓は左右とも高層アパート。左手には新しいデパートも目立つ。
 九龍湾。立ち客が益々増える。左手に列車の乗り入れ場。
 彩虹。地下に入る。
 [金賛]石山。だから何て読むんだ?
 目的地の黄大仙着。正午ジャスト。ピンイン(アルファベットの読仮名)はWongTaiSin。

 黄大仙!そこは…大香港最大の道教の聖地である!!
 何だか――かなりのスカでした。変な銅像があったりして楽しかったですけど,もう人だらけでイヤになる。しまった…日曜日の昼間って皆さんこーゆーとこにお出かけみたいね?(写真は別頁参照)
 社務所でお神籤の棒が30本くらい入った箱を配ってて,これをガチャガチャ揺すりながら祈るらしい。年期の入った信者も多いかと思いきや…若いお姉チャンが,箱を揺すり過ぎて棒をそこら中にドバアッとぶちまけちゃって,それを「アイヤ~」と慌てまくって拾ってるのが可愛いかったなあ。
 しかし,意外に時間をかけてしまった。今日の飲茶は3時位を目処にするか…。今朝も朝飲茶を目論んでたんだが実は湾仔で一軒フラれた。昼間は込み込み臭いんだよなあ。

 旺角に戻って飲茶。
 以前一度行った,体育館並みの広さの倫敦大酒楼を覗いてみる。1時過ぎだけど,この規模で満席はないだろ。――と思ったんだが甘かった!
 店内に入った途端,喋くり声の津波が襲来!!!
 …悪夢のよーな音響環境。
 見渡す限りの座席が香港人で埋め尽くされ,その香港人が一人残らず大声でお喋りしてて…夏休みのプールとかセミだらけの盛夏の公園…より5倍ほどウルセーんですけど?
 明らかに不快指数ブッチギリ状態のこの環境が,しかし何とも好ましく感じちゃうわしは,既に香港ナイズの重症患者か…?
 幸い,一番隅っこに一席だけ空いてた席をゲット。
魚の軟骨トロトロ煮
豆花
計50.2HK$

▲湾[イ子]の駅前市場に連なる露店の軒
 ここも人だらけ。日曜日の旺角市街。
 やはり昨日の本に載ってた香港滷味の名物店,肥[女且]に立ち寄る。開店すぐのはずだが既に行列。
イカゲソ2本
ホルモン2本
を食いながら,夕方までしばらく宿で休む。
 しょーこりもなく再度香港島へ。北角まで。
 目的地の場所に自信がなかったんだが,意外に早く見つかったんで時間が余る。
 街のパン屋さんめいて客足の絶えない感じだった嘉嘉餅店に入ってみる。
シエン餐包
鶏尾包
蛋達
 続いて,支店らしいけど由緒ありそうな豆花店で時間調整。
真正豆腐坊 [米唐]水道分店
豆腐花 5HK$
 ついでに,前から聞いてた香港素食の,これも支店を見つけたんで試し買い。
 店はトラム道に面した三徳素食館
斉滷味 25HK$
芋角,芋泥巻 各3.5HK$
 西洋の麺包(パン),中華の点心(おやつ),仏教の素食(精進料理)。これが結果どれも当たりだったんだから香港の懐の何と深いことよのう…はいいんだが,なんぼ何でも欲張り過ぎました。今晩ホントに食えるか?

 5時半定刻。
 熟食中心ニ楼(3階),東宝小館に座る。
 つまり市場の3階。香港の公設市場は大抵この構造を取ってるみたい。2階が市場で,4時過ぎにはかなりの一般客の姿がありました。
 完全に,パスタを食う頭になってた。
炒辣意粉(小辣)68HK$
無銭買味精之是日例湯(一碗) 20HK$
糖水 サービス
 ゲフッ――もう食えん!!!でも口福,口福…美味にホロ酔い気分で帰路につきました。

 ふらり,とトラムに乗り込んだ。
 気分が浮わついて地下を帰る気になんない。乗ってから気づいたが…あ。今回初トラムやがな。ちょっと感覚を忘れてました。
 かなり混んでて,しかもやっと座れたのが左側席。もう暗いし,街並みが確認できんがな。
 香港のトラム駅には駅名表示がない。とゆーより駅名そのもの,あるのかどうか不明。ここは…どの辺なんだ?
 戸惑ったまま,セントラルっぽい風景になったんで焦って降りたら――どこだここ?15分ほど歩いて,やっと見知った場所に出た。げげっ?まだ湾[イ子]?
 まあ成り行きじゃ。勢いで壇島珈琲店へ入っちゃう。
インヤン(難しいからもう漢字は書かない)
蛋達 計22HK$
 夜にケーキ食うと太るよ?――なんてここまで食えば心配しても無駄無駄!
 とにかく疲れた!朝から歩きっ放しだったもんな…。
 宿に帰着後,速攻で爆睡。

▲旺角の路地裏から高層ビルを見上げて

■小レポ(後日追記):謎の でも崇拝されてる湾仔洪圣庙

 路端に忽然と現れる意外さ,でも樹木と小さな岩しょうらしい地形の聖地性と,目をひく廟だけに前から気になってました。で調べてみましたけど──謎なのです,調べれば調べるほど。
▲打小人儀礼
明天就是惊蛰日! “打小人” 赶霉运! -RedChili21

①信仰の謎

 祭られてる神様は洪圣大王をはじめ11柱※に及び,何が本体なのか不鮮明。有名な神様の冠は後づけで,古来の本体は無名と目されます。
※①洪聖大王 ②太歲 ③包公丞相 ④華佗 ⑤文昌帝君 ⑥華光大帝 ⑦金花夫人 ⑧花粉夫人(金花娘娘)
 [望海觀音廟内]⑨觀音 ⑩城隍 ⑪灶君老張王爺

湾仔洪圣庙是提供每年惊蛰打小人活动的庙宇之一

※ 維基百科/湾仔洪圣庙 同香港洪聖廟列表
 銅鑼湾パンパン婆さんで有名な小人を打つ儀式を,毎年やるらしい。

②「下環」地名の謎

 対聯も載ってた。

石柱上刻对庙联:“古庙街新,海晏河清歌圣德;下环[注1]抒悃,民康物阜被天恩。”[前掲維基。以下同]

「古庙街新」は「古庙街」が新たと読むのか,古庙の街が新たと読むのか。「下环」は

注释 湾仔在香港开埠初期时维多利亚城区划的“四环九约”中属下环,而湾仔本身有“小海湾”的意思

と注があり,簡単に言うと湾仔の古名。ただ厳密に言えば,植民地時代にこの場所にあった旧ビクトリア城の城域内の区割り「四環九約」のうち「下環」のこと。

※維基百科/维多利亚城
 驚くべきは2点ある。一つは,地下鉄駅名に残る「上環」「中環」と並列の「下環」という地名が湾仔の,少なくとも西付近を指しているらしいこと。区域は分からないけれど,この廟はその幻の下環エリアの中心だったらしいのです。

③本来所在地「依山岩」の謎

 今一つは,この廟の本来の所在です。
 下の記述には,現在の廟は,1867年に拡張された海を見渡す観音廟だったとある。今の神様は1992年,つまりごく最近ここに合祀されたわけです。

湾仔洪圣庙原为海滨岩石上的小神坛,由坊众于1847年依山岩建筑,清朝咸丰十年(1860年)扩建。庙宇原座落海边,因湾仔海傍填海,现已位处内陆。该庙最近一次修葺是于1992年,并使1867年扩建的望海观音庙内花岗石过梁重现本来面貌。

 合祀された場所は花岗石の上。それにより「重现本来面貌」(本来の状態を再び現した)とあるのだから,元々は別の花岗岩上の場所にあったわけです。
 その花岗岩は「庙宇原座落海边,因湾仔海傍填海」とある。自然にとれば海岸の埋立時に邪魔になったのでしょう。「1847年依山岩建筑」の「依山岩」は地名なのか「山岩に依って」建築したという意味か分からないけれど,その場所は明確ではない。でも,元々海中にあった現海浜エリアのどこかがこの神様の本来住所です。
 けれど,そんなところにあった神様とは──鞆の浦の弁天島を初め日本の各浦の沖の岩礁を連想させます。そんなの香港にあるものなのか?

④そして今なお崇拝されてる

 そういう謎の神様が,今もはっきりとこのエリアの信仰の中心らしい。

于2015年9月26日举行重修揭幕及开光典礼。东华三院称,庙宇4月时有七成横梁被虫蛀,有倒塌危险,故为公众安全遂封庙重修。是次重修耗资逾140万元

 2015年に日本円にして一千万超の費用を投じて修繕されてます。
 さてここは一体,何なんでしょう?