外伝09♪~θ(^1^ )大埔墟微酔編

 いや~!!
 朝一番からヒートアップ!
 3日間滞在した中信賓館を後に,佐敦の百楽賓館酒店Best Hotelに移動。荷物を預けようとしたら,おばちゃん,のっけから喧嘩腰。
「お前!昨日来るって言ったじゃないか!」
 へ?
「今日泊まるなら400HK$払え」
 ええッ!?ブッキングミスかよ?ただ海外では,こーゆーケースでは自分が100%悪い場合を除いて,控え目に構えたら負け――って頭で「いや違うだろ?今日泊まるって言ったぞ」
「昨日の夜だ。しかもこんな朝早く来やがって!知るか!」
 ひとしきり押し問答するもラチがあかない。金はともかく,今から宿探しするのは簡単じゃないはず。ここは一度,膠着させ切って新展開を期待する手かな?
 ドンッと机叩いて怒ってみる。「なら金返せよ!前金取っただろ」
「いつ払った?もらってないぞ!」
 おいおい,それはないだろよ!!金も返さんのかい!…というか,この辺が新展開の芽になるかもよ?
 一応,財布に保管しといたはずの領収書…良かった,無くしてなかった!紙切れを突きつける。「ほら!払ってるだろ!」
 すると突然「あ~?」。おばちゃんの態度が和む。「ああ。いやあ~沢山お客が来るもんだからゴメンゴメン」
 他の日本人と勘違えてたのか,単なる寝ぼけか不明だが…沢山お客って,15室位しかないだろよ?客の名前は確認しようね。
 ──領収書なくしてたらヤバかった。話が通じてからも,この領収書を取り上げようとするから,にこやかを装いつつ「あ,その領収書は返してね」
 当たり前だが,大切なのは自己防衛。海外ではその常識の上にシステムが出来てるわけで…交渉としては,なかなか面白いシチュエーションでした。

 何だかんだで毎日必ず降りてしまうセントラル。
 目的地じゃなくても,つい降りて時間を潰してしまいたくなるエリアです。
 今朝はついでじゃなく,初日と同様,上環をちゃんと歩いてみることにする。
 とは言え,まず朝飯。市政大[ガンダレ+夏]の中にある上環熟食中心ってフードコートで,瑞記珈琲[女乃]茶に寄る。
肉蛋飽+[女乃]茶 20HK$
【→File07香港早餐参照】
 ここから山手へ。あえて,いつも使わない細道を選んでみた。
 道の名は忘れたが,くねくねと,薄暗い建物の間を縫って登ってく小径。計画性ゼロ,結果的に道になって残ってしまいましたって感じのいわばただの隙間道。時々こんな小径に出くわすけど,それだけ取ると瀬戸内の島の山道に似てる。開発前の道の残存かも?とにかく,気に入っちゃいました。

▲上還 坂道の出口で

 勝香園で予定外の麺を食ってしまう。
麺B雑菜(大豆芽菜・[火乍]麺根・菜心・青菜)+五香肉丁 22HK$
[女乃]茶(熱)12HK$
【→File07香港早餐参照】

 さっきのサンドイッチもかなりのボリュームだったし,腹パンパンだけどさらに3軒目へ,線行里の福緑園健康素食。
 素食,つまりヴェジタリアン。南インドのヴェジカリー,韓国のチョングッチャンと同様,上海や台湾では素食の店がいくつもあった。香港ではどうも見つからなかったけど,昨日ついに発見したわけで。
 腹が裂けても食う!これだけは断然食うぞ!
 店の名前は福緑園健康素食。日替わりの定食屋。
 星期六,本日土曜日のメニューは――
節爪章魚排骨湯
[舌甘]竹[火交]大魚
小常菜炒牛肉
 こッ!これはあ~!?
 カレイに似た魚とガンモドキの煮しめ。そして,青梗菜と炒めてあるのは…もろ牛肉。さすがは香港の素食技術,魚と肉に寸分違わぬ食材である。
 …のか?
 どーしても魚と肉にしか思えないんですけど?メニューをもう一度見直してみる。「肉もどき」みたいな語感の漢字がない。
 何か…おかしくね?
 でもよ~。入り口には「福緑園健康素食」の文字がちゃんとあるし,メニューにもこうして知らない店名が書いてあるし…って何だこの店名?
 これ…隣と間違えてる?――なんてことは…わしに限ってあるわけないよな。絶対にない!
 帰りがけ,隣の店を覗いてみる。すると,これが偶然にも明らかに素食の店で,仏様の御姿の壁紙が貼られ,やはり一汁二菜のランチセットが20HK$ほどで,近所の仏教徒の皆さんがより多くご来店だった。いやあ偶然だ。
 まあおそらくは,並の家庭の食卓ってこんな感じなんだろな。肉はほんの少し。あとは魚,大豆,青梗菜。
 けど,ちょっと上等な飯になると途端に野菜含有率が落ちちゃうみたい。
 「野菜なんて貧乏くさい!」って感覚は,ごく最近までイタリア以外のヨーロッパで一般的だった。他の漢民族エリアと同じく香港でもやはり一般的なんじゃないだろか?
 だからこそ「あえて野菜食を選ぶ」という行為が,仏教徒好みのストイックな位置付けを持ち得た。――昔の日本人や今のインド人なら,菜食=功徳みたいな認識は有り得ない。だって一般食の平均値が菜食なんだから。逆に,肉食=破戒と排除のラベルにはなり得るけども。
 こうして,中華世界の菜食感について認識を深めることができた。当初の目的通りと言える。あー美味かった,香港素食。ご飯半分残したけど。ゲプッ。

 東鉄線,深[土川]から5つ手前の駅が大埔墟です。
 地下鉄の尖沙[ロ且]駅から地下通路で鉄道(西鉄線)の尖東駅まで歩く。この駅から乗車して,東鉄線の起点,紅鋤駅で列車を乗り換えて大埔墟へ。
 この大埔墟は,言うまでもなく香港で最も早く開けていた町。宋代には既に集落があったとされ,民俗学に憧憬の深い私としてはどうしても行きたかった町。
 それならなぜ深[シ川]の行き帰りに寄らなかったのか?といった疑念をお持ちになるかもしれないが,旅人には信条というかこだわりというか,昨日初めてガイドブックで知ったというか,色々止むに止まれぬ事情があるんである。
 その証拠に(何の証拠だ?),結果として落ち着いたかなりいい街でした。豊富な旅行経験の賜物と言えよう。

 大埔墟の駅が,まず謎だった。
 駅ビルはそれなりの規模で,コンプレックスみたくなってる。スタバもあって使い勝手もセンスも合格点なんですけどね。
 唯一の難点は,駅から見て街は西にあるのに,これらがある駅の改札が東側にしかないこと。西口は存在しない。南側へ10分近く回って高架をくぐらないと街に出れない。日本じゃ有り得ない構造だけど,理由は全く不明。
 高架をくぐって出た辺りは小綺麗に計画的な街路が広がってます。一つ西,公園前の道路沿いも同じく日本的にきちんと開発された,面白くない景観なんですが――。

▲西の道路沿いに立つ安老院の看板。この町も介護施設の目立つ町でした。ただ香港島の雑居ビルよりは環境よさそう。

 けどこの2つの間の区画が趣ありました。
 小綺麗な開発エリアとまるで発想の違う街路配置。雑然と伸びてるわけじゃなく,四角いロータリーが基本形らしい。北京の胡同にもよくある配置。明らかに古い筆の残存。
 それだけに迷う迷う。十字に走る道路から一つ入ると,グルッと回って元の位置?みたいな道が連なってるわけで。そーゆー場所は大抵,迷路を形作ってきた歴史に醸された生活臭がムンムンなわけで。
 迷える町は楽しい。

 インド料理店でビバーグ。ってまだ食うのか!!って意見とゆーか呆れもあろうが,断じて食うんである。わははは…。
 ホントは笑ってられないほど腹一杯なんだけど,沙士亜印度餐庁。
午餐 [ロ加][ロ+ガンダレ+里]羊肉 30HK$
【→File08その他参照】
 かなりのレベルに満喫しつつ,ケータイに記録してたら…あらら?圏外かよ!電波的には香港外みたい。
 大埔墟の駅の南側には旧駅舎があって,簡単な博物館に仕立ててある。鉄ちゃんにはセンズイの場所みたいでスゴい熱心に写真撮ってるその手の方々がおられた。
 再び路地に迷い込む。市場になってる一角があった。このナチュラルさはなかなか,ないだろ?香港で見た中で一番生活感のある市場だったと思う。
 良かったぞ大埔墟!
 もっと郊外町を回りたくなってきたけど…帰国日,早くも明日に迫ってます。
 以上の事例から明らかなように,持参したガイドブックはきちんと読みましょう。旅における事前確認の重要性について広く世に啓発できたので,私としても大変満足している。

▲養老院のポスター。こーゆー曲がりなりにも暖かいイメージの表示,香港で見たのはこれっきりでした。

 いやあ~タイマッサージはやっぱり最高ッスよ!!
 「中国按摩はチョープ!タイマッサージはサバーイ!」と漢語とタイ語混じりの会話を交わしたのは,湾仔にポツポツあるタイ・マッサージの一室。ちなみにチョープは「痛い」,サバーイは「気持ちいい」。マッサージの感覚が違うのよ。
 足裏マッサージの「拾足拾」に行こうとしてたけど,浮気してもた。
 フワフワした気分のまんま,何も考えずに夜のトラムに飛び乗ってしまいました。
 そう言えば,百万ドルの夜景って香港のことでしたっけ?今更何言ってんだ!ですけど…トラムの2階から見る車窓を流れ去っていくネオン,遥か高みまで連なるビル明かり,店舗の個性的な電飾その他諸々の人間の営みを映す無数の灯──このトラム2階の前方に流れてく光の群れこそが,少なくともわしにとっては本当の百万ドルじゃないかなあ。
 とか,帰国前夜まで山に登ることを忘れてたんでちょっとセンチな思いに浸っておりましたら,中環の駅を見逃してしまった。降りますッ,降りますってば!

▲変わらねー。ラッキーハウスの手書き看板

 夜の佐敦,上海街。
 ラッキーハウスの看板の前で,一人感慨に浸る変な外人はわしです。
 漢語名:幸福民宿。ドミトリーのみの日本人溜まり場宿です。
 中国の西安に留学してた20年前,列車で広州へ,そこからナイトフェリーで香港に着いたはいーけど,地図も何もなしに,ただ旅行者から聞いてた上海街のラッキーハウスを目指した。タクシーにボラれた挙げ句,上海街を探して小一時間うろついて何とか見つけたのがこの小汚い看板やったなあ。
 あの後,ネイザンロード界隈の旅行代理店を何軒か回って初めてのエアチケットを購入して,当時の啓徳空港からバンコクへ。さらにカルカッタへ飛んで,陸路でトルコまで,往復3か月。
 ラッキーハウスの看板から上へ伸びる狭い階段。真っ暗闇で,これ以上なく怪しい。これも昔のまんま。
 しっかしホントに変わらねー!
 なんて感慨に耽ってたら,目の前の焼味店のオヤジ,嫌そうにチラチラ視線を投げてくる。その新強記焼[月昔]飯店って店,さっきから結構客足がある。軒先に「10HK$」と表示された豚足のパックがあったんで,流れで買ってみた。
 オヤジ,もぎ取るようにパックを取り上げたかと思うと,中華包丁でバンバン叩き切りサービスして渡してくれる。
 骨だらけだったけど…ムッチャ美味かったッス。

 同じビルに,「拾足拾」の支店が入ってた。
 うーん…行けってことか!?でも最終夜だしな。もちょっと香港の雑踏を歩きたくてパスしてしまった。
 この佐敦の夜はなかなかいい。尖沙[ロ且]ほど観光客だらけじゃないけど旺角ほど地元チックでもなく,程良くガイジンが楽しめる雑踏。出店も多いしチャラチャラ歩くには心地よい。ましてここは,わしには郷愁の町で,沖田艦長風に言うところの…何もかも皆懐かしい。
 後腐れのないよう,食うものも食いまくる。
 許留山で燕の巣。
燕巣鮮[イ十]果西米[テヘン+火火/労] 38HK$
 「今日最良[テヘン+火火/労]」で33HK$也。
【→File05香港スイーツ参照】
 [シ奥][シ州]牛[女乃]公司で三度目の牛乳プリンと,今回最もハマった香港ミルクティー。
西冷紅茶 14HK$
炒蛋多士 13HK$
【→File06[女乃]茶参照】
 ラストは決めてた。マックです。
 20年前,半年の中国(天安門の翌年だからマックなんて皆無)滞在で飢えてたマクドナルドのダブルチーズバーガー食って感涙した,あの佐敦のマックが,同じ場所にまだあった!
 流石にもう食えなかったんで,新たに出来てたマックカフェのコーナーでエスプレッソを一杯。20年前とほぼ同じ席にて。
 あの時思ったことはこれだったな。――資本主義に共産主義,今はまだどれも不細工なままだけど,どれもそれなりに奮闘してる姿なんだな。
 今回見た香港の食も,決して完成された姿じゃない。けど,とにかくそれはホットだった。この国は,まだ過渡期の臭いがプンプンだ。
 ホットな人間集団には未来がある。変わっていけるってのは,集団にとってこれ以上ない最強の武器なんだから。

▲街角歌合戦コーナーでライトを浴びて熱唱する,知らないお兄さん。香港人だね!